【特別企画】やねうらお×岩尾エマはるか 世界一対談!
2020.03.23

8x9がお届けするスペシャル企画「世界一対談!」今回ご対談いただくお二人は、コンピュータ将棋で世界一を成し遂げたやねうらおさんと、円周率の計算で世界一を成し遂げた岩尾エマはるかさんです。また聞き手として昨年、米サンフランシスコAdobe社から直々に招待を受けた8x9生徒の岡村有紗さんも交えて、世界一になった経緯や子供たちに向けたAI社会を生きるためのメッセージを語っていただきます。

写真の人物 :森田康太郎(左側)/ 岩尾エマはるか(中央左側)/ やねうらお(中央右側)/ 岡村有紗(右側)

“プログラミングは幼少期から独学で”

――今回進行を担当する株式会社ハック(キッズプログラミングスクール8x9)代表取締役の森田です。皆さま、よろしくお願いいたします!ところで素敵なパーカーを着ていますね。
やねうらお(以下やね)あんたが着ろって言ったんでしょう、自分とこのロゴが入ってて、宣伝したいからって…。
――いやぁ、ありがとうございます!さて。あらためまして、今日は世界一のことを成し得た方々にお集まりいただきました。やねうらおさん、岩尾エマはるかさんがそれぞれどのような事をなし得たのかをご紹介していただけますか。
岩尾エマはるか(以下エマ)私はコンピュータを使ってたくさんの桁数を計算し、円周率を31兆桁まで計算し世界記録を樹立しました。
――ありがとうございます!すごいですね、、31兆桁って読むだけでも一生かかっても無理ですね…。やねさんはどういった世界一ですか?
やね 私はコンピュータ将棋のソフトウェアを開発していて、2019年5月の世界コンピュータ将棋世界選手権で優勝しました。
――ありがとうございます!それって簡単に言うと将棋のAI開発で世界一取ったってことですよね。すごい!
やね やねうら王はAmazonで買えます(宣伝返し)
――では、お二人が世界一になるまで、コンピュータとの出会いを含めて、これまでのコンピューティングのキャリアを教えてください。
エマ 初めてパソコンに触れたのが1995年です。ちょうどこの時にWindows95が出たのですが、そのおかでげで安くなったWindows3.1のパソコンを親が買ってきたのがきっかけです。

元々プログラムを書きたかったんですね。そうしたら、いとこのお兄ちゃんが「(Windowsの前身の)DOSの方がプログラムを書きやすいから」と言ってWindowsを起動しないようにしてC言語のソフトを入れてくれました。ありがた迷惑ですよね(笑) ただそれがきっかけになり、図書館で一番分厚い本を借りてきて、ひたすらプログラムを写すというところからプログラミングを始めました。

当時はプログラミングスクールなんてなかったので、全て自学自習でやりました。例えば、パソコン通信のプログラムを改造したいからPascalやアセンブラ、Windowsのプログラムが書きたいと思ったらDelphi、掲示板を作りたいからPerlなどです。 そんな感じで手当たり次第に計画なしで「これをしたいからこれを勉強しよう」という感じでやってきました。

岩尾エマはるか:日本出身の女性技術者で趣味はゲームと旅行。8歳の時にWindows3.1に触れプログラミングを独学で修得。筑波大学でコンピュータサイエンスを専攻。いくつかの日本企業を経て、現在はシアトルにあるIT企業に勤める。2019年3月14日に円周率31兆4000億桁を計算。それまで円周率計算は22兆桁が最高だったため、実に9兆桁近く記録を伸ばし見事世界記録を樹立する。

数学がだめだったので、大学は文系の教育学部へ進んだんですけど、入ってすぐに大学の先生から「本当は教育じゃなくてコンピュータの方が好きなんじゃないの?」と私の興味を見抜かれてしまいました。そんな私に先生は「学部を移ることができるから移る?」と。「はい、じゃあ移ります」という感じでコンピュータサイエンスの学部に移り、その後は博士課程までコンピュータサイエンスを勉強し、日本の会社へ就職しました。
やね 私は1978年、まだ5歳ぐらいの時にTK-80と呼ばれるワンボードマイコンでプログラミングを始めました。パソコンではなくマイコンの時代です。当時マイコンは何の役にも立たない金持ちの道楽、いわば盆栽みたいなものと認識されていたので、小学校の友達に自分がパソコンをいじっていることが知れると「パソコンなんかさわるな!」って感じでいじめられる、みたいな(笑)

“プログラミングを隠さないといけない時代があった”

――昔はオタク的なもの、アングラなものってイメージがありましたよね。中学の時、友人の兄がドット絵を描いていて、それを動かすというプログラムを書いていたのですが、コソコソやってましたね~。
エマ パソコンが世の中に浸透し始めた90年代でも、若干そういう雰囲気は残っていましたね。
やね 学校では隠しておかないとやばい趣味みたいな感じで思っていたのですが、大学を卒業する頃に時代が変わり始めて。「コンピューターがなんかの役に立つよ」と言われ始めた時期でしたね。

やねうらお:現役プログラマー経営者。5歳からプログラミングを始め,小学生の時には既にプログラミングを仕事にする、生きる伝説プログラマー。かの有名な「BM98」の生みの親でもある。近年ではコンピュータ将棋プログラム「やねうら王」を手掛け、第29回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC29)では見事優勝し、AI将棋界で世界一となる。

小学校の時にいじめてきた子が「俺今、情報処理の勉強してるねん」と言ってきた時は、「ええ!?」って思いましたね。と同時に、昔言われた悪口を言い返したくなりました(笑)
――やねさん、エマさん、ありさちゃんそれぞれがコンピュータを始めた時代でコンピュータの普及率が全然違いますよね。
エマ 私がコンピュータに触れ始めた1990年代中頃は、Windowsがすごい売れてて秋葉原に並んでるというニュースがあったからみんな知ってるけど、でも家にはない、という感じでしたね。インターネットも普通の人にまで普及してなかったです。
やね 私が大学を卒業する頃ですね。ちょうど時代の変革期で、これまで隠れながらコンピュータを触っていた時代の風向きが変わって、空前の盆栽ブームがやってくるという感じでした(笑)
エマ 90年代で風向きが変わったとしても、私たちがDOSでやることと言ったら、ゲームの曲を耳コピして音楽ファイルを作ったり、アニメーションを作ったりすることが中心で、やっぱりアングラ感というかオタク感が残っていましたね。

“コンピュータが当たり前の時代になった”

――ありさちゃんはいつからコンピュータを始めたの?
ありさ 初めて触れたのは4年前にロボットを動かすためにパソコンを買ってもらった時で、ちゃんと使い始めたのは今の学校に転入してからです。授業や宿題、先生の連絡で毎日パソコンを使っています。

岡村有紗:プログラミングと科学とマンガが大好きな13歳。趣味は3歳からはじめたバイオリンと9歳から始めたプログラミング。8x9でプログラミングにハマり、自作したiPhoneアプリでは第1回Tech Kids Grand Prix決勝に進出。その際の作品とプレゼンが評価され、米Adobe社から直接会社へ招待されるなど、夢に向かって前進中。

本格的にプログラミングをするようになったのも同じ時期です。学校のクラブ活動で8x9の先生が来てくれていて、その時のプログラミングの授業が楽しくて。「もっと続きがしたい!」って思って六甲道校に通うようになりました。
――昔に比べたら、プログラミングを学習する方法も多様化し、プログラミングスクールに通ったりネットで調べたりできるので、お二人がプログラミングを始めた当時に比べると恵まれている環境にはありますよね。
エマ 当時は小学生にプログラミングを教える人が全くと言っていいほどいなかったですね。小学校でもプログラミングを教えられる先生は全くいない、もちろんプログラミングスクールもなかったので、大人向けの分厚い参考書を図書館で借りてきて自分で勉強するか、パソコン通信を使って他の人に聞くと言った方法しかなかったですね。
やね 今の恵まれている環境に少し疑問があって、今の環境だと純粋に学習することができるのか?と思いますね。たとえば、応用数学という学問はとても純粋な学問であるが故に、数学の中でもあまり役に立たない分類に入るんですね。私からみたら役に立たないからこそ、純粋に学問をするのが楽しいという思いを持っています。 子供の時にコンピュータを熱心に勉強したのは、こういった「役に立たないけど面白い」という気持ちからですね。しかし現在の世の中はコンピュータの学問は間違いなく役に立つ学問なので、それは損得関係なく純粋に学んでいるのかと思う時がありますよね。
エマ 私も今の環境に対して思うところがあって。今の環境では全体像を学びにくいな、と。私が子供の頃は、例えばDOSのプログラムを書く時は、ハードウェアを制御するためのプログラムも書きました。

昔は、プログラミングを通じてソフトウェアだけではなくハードウェアも含めコンピュータ全体を学ぶ必要があったし、学ぶことができました。しかし、例えば今のiPhoneアプリの開発はハードを意識せずに作ることができるので、自分で意識をしないとコンピュータの全体像を学ぶことが難しくなってきていますよね。意識しないでよくなり楽になったことが増えましたが、その分学びが断片的になっている気がします。
――確かに、私もサーバエンジニアとして、ハードウェア、OS、アプリケーションに携わってきました。なかには職業はプログラマだけど、ハードウェアとかネットワークを全く知らない人もいますよね。できれば、これからコンピュータを学ぶ人には包括的に勉強をしてほしいなと思いますね。

“産業構造の変化でプログラミングが強みに変わった”

――コンピュータをやってて良かったなと思う事は、どのようなことですか?
エマ 稼げてるというのが一番ですね(笑)。当時は誰もコンピュータをやってませんでしたし「オタク」って思われてて、中学の時も高校の時も「物好きだね」とか言われていました。 今となっては花形になっていて、同級生には「どんくさいと思ってたけどただ者じゃなかったんやな」と言われました。 当時は、開発エンジニアとして稼いでいる大人はまわりにいなかったので、こうやって稼げているだけで御の字です。
やね 私も大学出た後、空前の盆栽ブームがやってきて。いや、コンピュータブームか(笑) 周りは今から勉強を始めようかという段階の時に、こっちは5歳からプログラミングをはじめて、小学生の時には既に市役所のプログラムを仕事で書いていたので、まるで異世界チート小説みたいな設定をリアルで経験しました(笑)
エマ それ私も同じです(笑)大学のプログラミングの授業で先生が「分かる人は1学期分の課題を持ってきたら授業来なくていいです」と言われたので、本当に最初の週に全ての課題を提出して、授業に行きませんでした(笑)
やね スタートタイミングの違いは大きいですよね。子どもの頃、豊富に与えられていた可処分時間を使って得たスキルと経験の差を、大人になってから巻き返すのは容易ではありません。

“世界一が語る、これからの時代に必要な学び”

――お子さんたちが生きていく未来はどんな風になるのか、どういうことを学習していったら今後の世の中で活躍できる人材になるのか、お二人の意見をお聞かせください。
エマ すごく難しいですね。 例えば私が高校の時にはGoogleもなくて、iPhoneもありませんでした。 何が言いたいかというと10年後に出てくるものなんて想像がつかないし、そうした中でこれからもやっていかなければいけません。 大事なのは表層だけでなく「どうして」という疑問を潰す勉強の仕方をした方がいいんじゃないかなと思うんですよね。

例えばJavaScriptのフレームワークであるReactを今から覚えたとして、それが使えるのってほんの数年だと思います。数年経つとまた次の新しいフレームワークが出てくるわけだからまた覚え直しです。でもオブジェクト指向そのものを理解し、どうしてReactみたいなフレームワークが求められているのか、その意味や歴史を勉強するのであれば、次が出てきたとしても適応しやすいと思います。

私はよく「小さいころからIT企業で働きたかったんですか?」と聞かれることがありますが、プログラミングを仕事にするなんて思ってもいませんでした。 世の中に出てくる物ってくだらないものでも「これはすごい」って宣伝されているものがたくさんあるので 世の中に惑わされることなく、心から楽しいと思えることを貫いてやってほしい。それが一番の近道だと思います。本質となるものを地道に学んでいくのは大事だと思いますね。
やね 今後、AIやコンピュータによって、なくなる職業ってたくさんあると思うんです。実際、世間でもこの先なくなるから〇〇の仕事はやめといた方がいいよという論調になりつつあるじゃないですか。じゃあ人間より何億倍も演算速度が速い計算機が出てきた時に、四則演算が必要なくなったかというとそんなことはないじゃないですか。コンピューター将棋も同じで、強いソフトはプロ棋士よりも圧倒的に強いんです。でも、将棋を勉強することに意味がないのかっていったらそうではない。頭のトレーニングにはなるので小学校でも授業で導入されているところがあるわけですよ。

そういうことを考えると AIで代替できるからやらなくて良いって理屈にはならないんじゃないかなと思ってですね。確かに職業としてはなくなるんだけど、スキルとしてはむしろAIから教えてもらってでも学ばないといけないものもあるんじゃないかなと思います。
エマ それは本当にそう思いますね。「言語の自動翻訳ができるようになるから英語を覚える必要はない」って言う人がいるんですけど、それがいつ実用化されるかなんてわからないじゃないですか。同僚とレストランに入って目を合わせて話をすることがあるとして、毎回翻訳ソフト経由で話すより、直接会話できた方がきっと幸せですよね。テクノロジーに過度に期待したり、頼り過ぎないことも人間には必要だと思います。
やね あとAIから教えてもらえることもあると思います。中学校ぐらいで習う英文だったら自動翻訳でもそこそこ訳せるので、勉強し始めに学校の教科書を見てわからない英文を自動翻訳で訳して、ああこういう風に訳すんだっていうような。

そういう感じでAIを使って教えてもらえる部分も多々あると思うんですよ。AIでできるからやらなくていいっていう発想はあまり持たない方がいいのかなと思いますね。
――テクノロジーで解決されるものが増えるからこそ、その基礎となる部分はきちんと学習した上で、自分の中でためこんでいくということが必要なんですね。世界一ホルダーであるお二人のお話は、8x9(ハック)の生徒さん達にしっかりお伝えしておきます!お二人とも、本日は貴重なお話をありがとうございました。

キッズプログラミングスクール8x9(ハック)
神戸市を起点に関西に展開している小中学生向けプログラミングスクール。IT企業が母体となり運営しているため、現役プログラマを中心とした講師陣による丁寧な指導が特徴。そのほか、Minecraft®用Mod「8x9Craft(ハッククラフト)®」を独自開発し、全ての子供達に無料で提供するなどエンジニア×教育者ならではの取り組みも行っている。

( インタビュアー:森田 / 執筆:林 )